まえがき
2月の添削と寸評をします。前にも言いましたが、力不足の私が私なりに解釈し、私なりに
添削したもので、こういう解釈もある、こういう作り方もあるのだなというふうに思って下
さい。
みなさんの思いと違うこともあると思いますが、悪しからずご了承ください。
さて、2月は先月よりいい句が沢山あったように思います。感心しました。やはりみなさん
の詩的センスがいいのでしょう。期待しています。
(注釈) 添削句はすべて「旧かなづかい」を使っています。
1 うすごおりあすも出来るか水を張る
<添削> 薄氷あすも出来るか列車音
このところ冷え込みが厳しい。明日も凍るだろうかと盥などに水を張るのである。
「水を張る」は説明になるので省きたい。そして「うすごうり」が主題ですから漢字の「薄氷」に
してみました。
2 路地を行く浴びたる声の鬼は外
<添削> 路地ゆけば鬼追ふ声を浴びにけり
昔はどの家も豆まきをしていました。「鬼は外」と「声」は付きますので「鬼追ふ声」としてみ
ました。
3 節分や恵方巻きのまるかじり
<添削> 節分や恵方巻きずしまるかじり
中七を中八にしました。 最近は恵方巻きという大きな巻きずしがあります。その巻きずしを
まるごと食べているというのです。少し行儀がわるいでしょうか。こっけい味のありおもしろい
と句だと思います。
4 なやらいの鬼に叩かれ泣き出す児
<添削> ならやひに泣き出す児らに笑ふ母
「ならやい」は「鬼やらひ」のことです。鬼はいりません。俳句は省略の文芸です。叩かれて
は除けました。
5 風花や親に遅れし子供たち
<添削> 風花や親子見合はす笑顔にて
原句は少し説明になり、当たり前になります。俳句としておもしろくありません。
添削句は風花を見て親子が喜んでいる情景にしてみました。
6 予報では花粉の多い春という
<添削> 杉花粉多し峠の石地蔵
これでは説明になります。そして切れ字が弱い。今年は花粉が多く石地蔵も困っています。
7 若草の句会賑わう読み初め
<添削> 賑はゐぬインターネット初句会
「若草の句会」ではあいまいです。名称ですから「若草句会」でいきましょう。それから「読
み」とは書物を読むことで俳句を詠むというには無理があると思います。
8 うすごおりくっつきはなれ流れゆく
<添削> 薄氷(うすらい)の流るる離れては付きて
「うすごおり」は主題ですから漢字にしました。漢字の方が鮮明になります。また、中七と下
五を入れ替えてみました。この方がリズム感がいいと思います
9 節分や声高らかに福は内
<添削> 厨より黄色い声の福は内
「節分」「福の内」は季重ねになります。季重ねも許される場合もありますが、初めごろは避
けて下さい。「声高らかに」は説明になります。
キッチンで豆まきをしています。黄色い声、つまり子供が豆まきをしているのでしょう。
10 寒鯉や古刹の池の静けさよ
<添削> 寒鯉や古刹の池にひとり佇ち
この句でもいいと思いますが「、寒鯉」「」古刹「静けさ」はすこし付きすぎ、或いはイメージの
同じようなものが並びますので、このようにしてみました。静けさをいわなくても池の静けさは
感じられると思います。また、自分が景にでてきます。
11 夕しぐれこども呼ぶ母声高し
<添削> 夕しぐれ子を呼ぶ母の声高に(かわだか)
「子供」と漢字を使いたい。添削句のほうが調子がいいと思います。
12 掃き寄せる車庫の奥より年の豆
面白いところに目をつけられたですね。思わない所に年の豆が転がっていた。思い切り豆
をまかれたのでしょう。簡潔明瞭、素直でいい句だと思います。
13 快方を知らせる電話春立ちぬ
<添削> 快方の知らせ草餅焼いてをり
「春立ちぬ」つまり「立春」は節分の翌日にあたります。もっと季節として幅のある季語を使
ったほうがいい場合があります。電話は省くことができます。具体的な物(花・鳥・風など)の
ほうが詩的情緒があるかと思ってこのようにしてみました。
14 初雪や白い帽子の石地蔵
<添削> 初雪や赤い帽子の辻地蔵
「雪」「白い帽子」「石地蔵」どれも白っぽいものです。俳句は色の取り合わせも大事な要素
です。
15 燈籠も深雪に沈む加賀の里
<添削> 調子のいい、まとまった句です。情景がよくわかります。
兼六公園でしょうか。今年は大雪です。愛媛県では見られない美しい風景です。
16 寝枕に静かな調べ冬の夜<添削> 朧夜のショパン流るる枕元
「寝枕」「夜」は付きすぎです。情景はよくわかります。いい雰囲気ですね。
17 雪を追うツアーの人となりにけり
<添削> 雪を追ふツアーやお酒酌み交はし
このままでいいかも知れません。平凡すぎるかと思い、このようにしてみました。ツアーの<
バスの中または旅館でお酒をくみかわしているのです。
18 冬晴れの啄む(ついばむ)鳩に遠まわり
<添削> 冬晴や向きそれぞれの鳩の嘴(はし)
俳句では「冬晴れ」は「冬晴」とします。切れが弱いので「冬晴や」と切って、鳩そのものを<
詠んでみました。
19 マフラーの手編みに挑む茶髪の子
面白い句ですね。
私たちの年代の女性は誰でも編み物をしていましたが、現代っ子にとっては編み物は大変
な作業なのでしょう。彼氏のマフラーを熱心に編んでいるのでしょうか。
20 一円を磴に置きつつ厄払ふ
<添削> 厄払ふ一円玉を磴に置き
日和佐の薬王寺へお参りされたのでしょうか。石段の一段ごとに一円玉を置いて厄をはら
う習慣があります。添削句ですと切れがはっきりし、調子もよくなりませんか。
21 父逝きし歳となりをり沈丁花
これは私の句です。 子供のころは77歳といえば、大変なお年寄りだと思っていましたが、
いつの間にか父の歳を越してしまいました。いろんな感慨にふけっています。
22 厄よけに友と語らい寺社参り
<添削> 厄詣友と語らふ旅一夜
「厄よけ」が季語になるのか?歳時記では「厄落し」「厄詣」「厄払」というのがあります。「厄よ
け」と「寺社参り」はつきますので「寺社参り」を省略してみました。酒を汲みかわしながら、そ
れぞれの人生を語っています。
23 冬ひと日何するでなく腕組みて
<添削> 腕を組み遠山見つむ冬ひと日
これでいいのかも知れませんが、私には今ひとつ具象性に欠けるような気がします。一人
身で無聊をかこっている。前向きに活動しましょう。
24 雪道を並んで帰るランドセル
<添削> 雪道を駈けて転んでランドセル
説明的で俳句のおもしろみに欠けるように思いまして。
25 紅白の庭に一輪寒椿
<添削> 紅白の一輪庭の寒椿
五・七・五を入れ替えてみました。このほうがよく分かり、調子もよくなります。庭は除けたい
ところ。考えて見て下さい。
<紅白の二輪記念の寒椿>
26 チャットして俳句を作る春の宵
「チャット」という言葉はまだ一般化していません。現代俳句では許されるのかも知れません
が。一般俳句の世界では通用しないと思います。
27 あちこちで鳩も正座し日向ぼこ
<添削> 向き向きに鳩も正座し日向ぼこ
行儀のいい鳩です。日向ぼこをするにも正座しています。面白いとらえ方ですね。ちょっと言
葉を変えてみました。
28 戦争の話やおでんぐつぐつと
私の句です。戦中派の私は激しい空襲をうけ、戦火の中をさまよいました。したがって戦争
の話になるとついつい熱がはいります。今は平和でいいですね。おでんは私の好物。
29 山茶花の花びら落ちる春一番
<添削> 一列に鳩並びゐる春一番
何もかも言っています。 説明になっています。簡潔にしましょう。「山茶花」も「春一番」も季
語で季重ねになります。電線に鳩が並んでいる風景にしてみました。
30 如月や母逝きし月巡りきて
<添削> 母逝きし月巡りきし牡丹の芽
具象性に欠けると思います。俳句は思いを物に託して詠むものです。
逝きし母の感慨にふけっています。母の育てた牡丹が芽を出してきた。私は健気に生きて
いこうと思う。
31 妻やみてひたすら思う余寒かな
<添削> 妻病みてひたすら思う余寒にて
「かな」止めの場合は一句一章といって句切れなしに一気に詠みつぎます。「やみて」は「病
み」の漢字の方が思いが出るように思います。
32 百貨店一足早い雛祭り
<添削> 百貨店一足早い雛人形
「雛祭り」は「桃の節句」で、松山では4月3日におこなう行事のことです。したがって「雛祭
り」を「雛人形」にしました。いかがでしょうか。デパートでは前年の12月から店頭に飾られて
いますよね。
33 年賀状一人暮らしのひと多し
<添削> 一人居の多くなりけり年賀状
毎年、喪中のはがきがき、一人暮らしの人が多くなってきます。気の毒なことです。添削句
のほうが調子がよくありませんか。
34 チャットしてひとりほほえみ春近し
26 を参照して下さい。
35 初雪や貧富選ばず降り積もる
<添削> 初雪の貧富選ばず積もりけり
「降り」は不要。言われてみればそのとおりですね。だから自然界は素晴らしいのです。
36 薄氷踏み行く子等のはしやぎ声
情景がよく分かり共感します。微笑まし風景で子供のころを思い出しますね。
37 寒念仏ホーホーと家まわりゆく
<添削> 路地裏に寒念仏の流れけり
寒念仏に「ホーホー」という擬態語は無理だと思います。素直に詠んでみました。俳句は簡
潔で明瞭なのががいいとされています。
38 紅梅を褒めて話しの弾みけり
褒められたら誰でもうれしいものです。褒められたのでついつい話しが長くなったという、
よくある話です。日常よくあることを素直に詠まれており、いい句だと思いす。
39 寒梅や孫合格の祝い酒
<添削> 合格の一報梅のまっ盛り
「合格」と「祝い酒」は付きすぎです。「若草句会」では「孫」をぼつぼつ使っていますが、
「孫」というだけで思いいれが強くなるので俳句では使わない方がいいとされています。
40 潮満ちて水面に踊る白魚や
<添削> 白魚の踊る日射しのきららにて
「や」で切れる下語はよくありません。「潮」「水面」「白魚」と同種のものが並びすぎです。省
略しましょう。
41 街灯の水面にゆれる冬帽子
<添削> 街灯の水面に揺るる花のころ
「水面にゆれる」は「街灯」と「冬帽子」にもかかるようにも思われます。
添削句では春らしくなってきた感じがでていませんか。
42 花図鑑求めて寒の明けにけり
私の句です。私は花が大好きです。新しい花図鑑を見て楽しんでいます。暖かくなったら花
を求めて旅をするのを楽しみにしています。
43 確定申告郵送で済み冬うらら
<添削> 納税書郵送ですむ余寒かな
「確定申告」は八音(字)です。上八は使わないようにしましょう。「納税書」でいいのか、どう
か。時勢を現わしている句です。
44 凛として夕日に映える雪の峰
私は山が大好きで、冠雪した山も登りました。雪山が夕日に輝いている雄大な美しい光景
です。いい句です。
45 花蕾鎧のような衣つけ
<添削> 鳶鳴くや鎧のような蕾にて
「花蕾」の蕾といえば花です。また「鎧」も「衣」も身につけるものです。省略しましょう。
46 メダリストランナー手を振り息白
<添削> メダリスト走者手を振る春日和
中八になります。「ランナー」を「走者」にして中七にしました。土佐礼子選手が走っているの
でしょうか。沿道で大勢の人が応援をしていて、それに手を振って応えています。おだやかな
日和ですが、ロードでは熱戦が繰り広げられています。
47 孫送り列車が消えて冬の雲
<添削> 子供発つ列車消へゆく冬の雲
俳句では「孫」を使うのを好まないので、「子供」としました。この句のほうが調子が良いでし
ょう。
48 五箇山や六尺の炉のほだあかし
<添削> 五箇山の辺や六尺の炉火赤し
世界文化遺産である、雪が積もっている五箇山の合掌作りを見に行く。
さぞ、素晴らしい景観だったことでしょう。
私は「あかし」を「赤し」にしたいです。「五箇山の辺」にして少し場所をしぼってみました。
49 しんしんと吾があばらやにも雪の音
<添削> あばらやに音なく雪の降ってきし
中八になっています。中七にしましょう。しんしんという擬態語は雪がしきりに降るさまをいう
ものです。そこで「雪の音」は除けました。また、「あばらや」とは自分の家を謙譲として用いる
もので「吾が」も除けました。