8月分俳句の添削と寸評 |
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暑い日がつづいています。体調はいかがですか、夏は季語がもっとも多い季節です。 |
暑さにめげず句作りに励みましょう。俳句の世界では「沢山作って沢山捨てる」と |
いいます。今月もいい句が沢山ありました。 |
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相変わらず私流の添削と寸評をします。失礼の段はお許し下さい。 |
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1 甲子園熱き闘い玉の汗 |
(ゆづき) |
<添削> 野球児の熱き戦い夏の雲 |
三段切れで、リズムが悪くなります。切れは二つまでにしましょう。「熱き戦い」と |
「玉の汗」は付き過ぎで、説明になります。「玉の汗」を「夏の雲」に置き換えてみました。 |
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2 サルスベリ暑さにめげず拳上げ |
(菜の花) |
<添削> 大空に拳をのばすさるすべり |
「サルスベリ(百日紅)」「暑さ」は夏の季語で季重ねです。添削のように平明に |
詠んでみました。 |
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3 朝露を浴びて輝く稲穂かな |
( 泉 ) |
<添削> 逆光を浴びてきらめく稲穂かな |
「露」「稲穂」は秋の季語で季重ねです。 |
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4 阿波踊りありし日の夫想い出し |
(菜の花) |
<添削> 世話好きの夫想いだす阿波踊り |
「ありし日の」は漠然としているのでこのようにしてみました。この方が具象性が |
あるように思います。俳句は断定したほうがいいのです。 |
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5 炎道に蝉を弔う蟻の列 |
(千 柳) |
<添削> お三時の亡骸(なきがら)ささぐ蟻の列 |
「炎道」「蝉」「蟻」はいずれも夏の季語です。したがって季重ねになります。 |
「道」と「蟻の列」は説明になるので省略しました。 |
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6 健康という幸せやビール飲む |
(いなご) |
いい句です。健康が何よりの幸せです。ビールが旨い。しかし、ほどほどに |
飲みましょう。感謝!感謝! |
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7 夜濯ぎに傷めし紙幣(お札)の洗い張り |
(蝋 梅) |
<添削> 福沢のお札傷める夜濯に |
中八になります。そして、説明的になっています。このようにしてみましたが、 |
「福沢のお札」でとおるでしょうか? |
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8 熱帯夜一機の蚊来襲大捜索 |
(野 鯉) |
俳句は平明でないといけません。何を詠みたいのか焦点がはっきりしません。 |
「熱帯夜」「蚊」は夏の季語で、季重ねになります。また中九になります。考えてみてください。 |
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9 笹飾り色鮮やかに宙に舞ふ |
(哲 朗) |
<添削> 宙に舞ふ色鮮やかな笹飾り |
「笹飾り」を下にもってきたほうが調子がよくなりませんか。 |
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10 大欠伸移され小欠伸蝉時雨 |
(媛 香) |
<添削> 大欠伸移る小欠伸蝉時雨 |
中八になるのでこのようにしました。退屈しているのに蝉は懸命に鳴いている |
という。おもしろい句です。 |
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11 日差し受け雲海怒涛の如くなる |
(コスモス) |
<添削> 雲海の怒涛の如き穂高岳 |
「雲海怒濤の」は中八になります。そして、説明になっているのでこのようにして |
みました。具体的な場所などをだすと実感がでると思います。 |
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12 やり場なき運転席の大西日 |
(哲 朗) |
平明でいい句です。大西日をまともにうけてまぶしい。安全運転に気をつけましょう。 |
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13 金蔵の描きし屏風夜の祭 |
(浩 風) |
<添削> 金蔵の描きし屏風祭の夜 |
「金蔵」は「金庫」のこともいいます、「画家の名前」でしたら「まえがき」をつけ |
られたらどうでしょうか。「夜の祭」はどうかと思いますが。「祭の夜」ではいけませんか。 |
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14 ふるまわる絵金まつりの酒うまし |
(浩 風) |
<添削> ふるまわる絵金まつりのお酌酒 |
私は「絵金まつり」を知りません。お酒が格別にうまかったのでしょうが。 |
「うまし」まで言わない方がいいと思います。 |
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15 父の忌や大夕焼けを眺めをり |
(媛 香) |
いい句です。自然が大好きだったお父さんを忍ばれる。 |
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16 よしこのの音に誘われにわか連 |
( 泉 ) |
<添削> よしこのの音に浮かれる夏祭 |
季語がないと思います。また説明になっており、情緒がありません。 |
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17 蓑虫の顔出している童唄 |
(彰 子) |
私の句です。蓑虫が立ち止まり耳を澄まして童唄を聞いている。 |
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18 諸人や駈けだしている夕立に |
(石の花) |
<添削> 諸人の駈けだしている大夕立 |
「諸人や」で切るのはどうかと思います。焦点は季語の夕立にあると思いますので。 |
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19 一陣の風吹きそよぎ夕立来(き) |
(石の花) |
<添削> 一陣の風吹きそよぐ夏祭 |
「風吹き」「夕立」と気象語が並ぶと説明になります。 |
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20 戯れて鐘撞く兄弟夏帽子 |
(コスモス) |
<添削> 戯れて鐘撞く姉妹夏帽子 |
中八になります。そこで「姉妹」にしました。俳句は作るもので他に置き換えて |
いいのです。 |
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21 蟻が行く体に余る荷物持ち |
(初 霜) |
<添削> 蟻行くや体に余る荷物持ち |
よく見ておられ素直に詠まれています。いい句です。「蟻行くや」と強い切れに |
してみましたがいかがでしょうか。 |
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22 虹立つや草木そよぎて川広し |
(峰 生) |
<添削> 虹立つや草木のそよぐ川の辺に |
「そよぎて川広し」はどうかと思います。 |
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23 ふと吾にかえれば沁みる蝉の声 |
(千 柳) |
いい句です。何か物思いにふけっていたが、ふと吾にかえったら蝉の声がしている、 |
しみじみと聞き入っているのである。 |
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24 蝉取りの声賑やかに遠ざかる |
(コスモス) |
<添削> 蝉取りの声遠ざかる日暮時 |
情景はよく分かります。「賑やかに」を省略し平明にしてみました。 |
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25 雷鳴に座布団かぶる幼き子 |
(いなご) |
<添削> はたたくや座布団かぶる幼き子 |
面白い情景です。しかし笑ってはいけませんね。「雷鳴に」と「に」になると |
どうしても説明になるのでこのようにしてみました。 |
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26 孫たちの去りたる庭に夏の月 |
(そらまめ) |
平明ないい句です。久しぶりの孫で賑わっていたが、帰っていくと寂しくなる。 |
月を眺めながら孫を想うのである。 |
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27 トンボ取り爺の手しっかり握りしめ |
( 泉 ) |
<添削> トンボ取る爺の手しかと握りしめ |
中八になるのでこのようにしました。童心にかえり孫との楽しい蜻蛉取りです。 |
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28 蝉しぐれ思考回路を断たれたり |
(楓 花) |
<添削> 熊蝉に思考回路を断たれたり |
この句の場合は「蝉しぐれ」と切らない方がいいと思います。「思考回路」とは |
新しい句です。 |
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29 俄雨しばしの涼風満喫す |
(石の花) |
<添削> 雨去りてしばし憩ふや涼風に |
「俄雨」でかるく切れるのでこのようにしてみました。「満喫す」は押さえて |
詠みたいものです。 |
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30 びょうぶ絵の修羅の浮きたつまつりかな |
(浩 風) |
<添削> 屏風絵の修羅の浮きたつ祭りかな |
いい句です。いいところに目つけられました。漢字の方が印象がはっきりすると |
思いまして、漢字にしました。見事な阿修羅像の絵が、祭りの印象として強烈に残る。 |
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31 暮れなずむ白き葉裏の合歓の花 |
(さつき) |
いい句です。合歓の花でなく葉の裏側に何か感じるものがあったのでしょう。 |
意外性のある句です。 |
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32 滴りや水琴窟の妙なる音 |
(初 霜) |
<添削> 万緑や水琴窟に耳澄ます |
水琴窟は水が滴るときの音です。したがって、「滴り」は付き過ぎます。 |
また水琴窟は妙なる音のするものです。そこで「妙なる音」は省略しました。 |
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33 うだる日に蝉はしきりに空見上げ |
(蝋 梅) |
<添削> うだる日の蝉はしきりに空見上げ |
「うだる日に」と「に」にすると説明になるのです。「うだる日の」とすれば |
解決します。 |
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34 ヂーチャンとゼンゴ釣り上げ帰省孫 |
(そらまめ) |
<添削> 爺ちゃんとゼンゴ釣り上ぐ帰省孫 |
「ヂーチャン」とこの種のかたかなは好まれません。沢山釣れたでしょうか。 |
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35 夏は朝体操会や共白髪 |
(峰 生) |
<添削> 炎天の体操会や共白髪 |
「夏は朝」で切ると調子がよくありません。炎天下、白髪の老人夫婦が懸命に |
体操をしている。まだまだ元気で長生きをしてください。 |
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36 ポンポンとたたきてすいか採りにけり |
(いなご) |
<添削> ポンポンとたたきて西瓜採りにけり |
いい句です。素直に平明に詠まれています。情景がよく分かります。「すいか」は |
漢字の方が印象が強くなると思いますが。 |
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>37 慈雨しばし土の匂いの中に居る |
(楓 花) |
「慈雨」が土のなかにしばらくいるのか、「自分」が土の匂いのなかにしばらく |
いるのか、私には少し不鮮明。悪しからず。 |
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38 墓洗う手押しポンプの水錆て |
(媛 香) |
濁っている水で墓を洗っているか、手押しポンプが錆びているのか、私には句意が |
よく分かりません。悪しからず。 |
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39 麦茶煮る長き季節を思ひつつ |
(楓 花) |
「麦茶」は煎じたお湯のこともいいます。「長き季節」とは何をいうのでしょうか。 |
私にはよく分かりません。悪しからず。 |
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40 法師蝉鳴き出し胸をなで下ろす |
(初 霜) |
法師蝉が胸をなで下ろしているのか、自分が胸をなでおろしているのか、私には |
よく分かりません。悪しからず |
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41 すててこは何故か疎まれ手酌酒 |
(峰 生) |
<添削> 糊のきくすててこ着(は)いて手酌酒 |
「すててこは何故か疎まれ」は抽象的です。眼前に、心が動いたことを具現化し |
平明に詠んでください。 |
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42 雨あがり波打つ稲穂心地よく |
(菜の花) |
<添削> 黄金の稲穂波打つ上天気 |
「心地よく」といった心象的表現はなるべく避けましょう。「波打つ稲穂」で心地 |
よいことは想像できます。言い切らないで余韻を残すともいいます。 |
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43 夏草の匂い蒸せくる夜の窓 |
(野 鯉) |
<添削> 夏草の匂いに噎ぶ日暮れ時 |
「匂いに噎ぶ」という言葉はありますが、「匂い蒸せくる」という言葉がある |
のでしょうか。 |
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44 白蓮の葉陰にちらり緋鯉かな |
(千 柳) |
<添削> もちの木の葉陰をめぐる緋鯉かな |
「白蓮」が「はくれん」のことでしたら春の季語です。また、「緋鯉」は夏の |
季語です。かな止めの場合は句切れなしに一気に詠みましょう。 |
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45 虫干しや妣(はは・亡母)の晴れ着を胸に当て |
(さつき) |
<添削> 虫干しや妣(はは・亡母)の晴れ着の匂ひゐて |
<添削> 虫干しの妣(はは・亡母)の晴れ着を羽織りをり |
私には原句の情景が今ひとつはっきりしません。 |
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46 雷鳴の響きのあとの静けさや |
(蝋 梅) |
<添削> 雷鳴の遠のく猫と目をあわす |
原句ですと平凡になります。また、何もかも言って余韻がありません。 |
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47 大広間冷しそうめん味談義 |
(さつき) |
<添削> 二次会の冷しうどんの味談義 |
「大広間」「冷しそうめん」「味談義」と三段切れになっています。切るのは |
二つまでにしましょう。 |
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48 海よりはプール通いの都会孫 |
(そらまめ) |
説明になり、情緒がありません。考えてみてください。悪しからず。また、 |
「都会孫」という言葉があるのでしょうか。 |
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49 滝しぶき吹き割る風に人の群れ |
(哲 朗) |
三段切れになっています。何を詠みたいのか考えてみてください。悪しからず。 |
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50 雲上の穂高三山岩ひばり |
(彰 子) |
私の句です。雲上の穂高岳に立つと岩ひばりが沢山いました。人懐かしくそばに |
寄ってきます。 |
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51 白靴の歩幅の先へ紋白蝶 |
(竹 豪) |
<添削> 巡礼の先立つ蝶のもつれつつ |
「白靴」「紋白蝶」は夏の季語です。また、説明調になっています。 |
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52 明日は登頂満天の星こぼれをり |
(彰 子) |
私の句です。山小屋での空に星がちりばめていました。いいいよ明日は登頂です。 |
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53 モロヘイヤ猛暑の庭の薄緑 |
(野 鯉) |
<添削> 炎天の庭の一隅モロヘイヤ |
「モロヘイヤ」で切れるので下へもってきました。また「薄緑」は説明になる |
ので省略しました。 |
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54 よしこのでやっとやっとな阿波踊り |
(ゆづき) |
<添削> 飛び入りの男踊りのおどけ顔 |
阿波踊りの説明におわっているように思います。したがって感動が伝わって |
きません。阿波踊りを見ての実感を詠むといいのですが。 |
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55 野球拳よよいのよいや夏祭り |
(ゆづき) |
<添削> 野球拳踊りや子規の城下町 |
三段切れになり、調子がよくありません。また説明的になるのでこのようにして |
みました。あれこれ言っていません。つまり、平明に詠んています。 |
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(添削と寸評を終わります) |