平成18年 4月1日〜平成18年 4月20日 投句分
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互 選 句
第 16回 披 講
     彰  子  の  添  削  と  寸  評
     過ぎ去るのは早いもので、今年もはや5月になりました。歳時記では
   清明(4月5日)から立夏の前日(5月5日)までを「晩春」に分類しています。
   晩春にもいい季語が沢山あります。いろんな季語を使って俳句を作ってください。
   少し運動すると汗ばむ季節になりましたが、句作りも少し精出して汗をかいてください。
   今月はいい句が沢山ありました。うれしく思っています。相変わらず、自分流で
   添削や寸評をします。気にさわることがあると思いますが、悪しからず。
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番号       添  削  と  寸  評         俳 号
1 桜色春爛漫のキャンバスに 千 柳
<添削> 風吹くや春爛漫のキャンバスに
  「桜色」「春爛漫」は付き過ぎです。「桜色」を「風吹く」に替えてみました。
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2 銀輪の2台並んで新入生 楓 花
  いい句です。新しい自転車でしょう。きらきら輝きながら2台並んで走っている。
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3  散る桜水面に浮かぶ地図模様 哲 朗
<添削> 散る桜水面に浮かぶ日暮時
  説明的になるので「地図模様」を「日暮時」にかえてみました。いかがですか。
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4 水草生ふ池の片端に固まりて 媛 香
  いい句です。春になるといろんな水草が固まって生えてきます。やがて蓮・河骨など
 美しい花が咲きます。花が咲くと「水草の花」で夏の季語になります。
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5 お揃いの紺のスーツや若桜 まこと
 いい句です。お揃いの紺のスーツがよく似合います。頑張ってください。
 季語がよく効いています。
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6 春炬燵夫と語らふ夕餉かな  泉
<添削> 春炬燵夫と語らふ夕餉にて
  いい句です。「かな止め」の場合は一句一章で句切れなしに一気に詠みつづけます。
 そこで「春炬燵」で切れるのが少し気になりますが、どうでしょう。
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7 木々の枝ひと雨毎に新緑に 菜の花
<添削> 新緑や雨後の石鎚遠くにて
 説明になっています。このようにしてみました。
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8 想い出の母屋解体春の雨 浩 風
<添削> 住み慣れし母屋解体春の雨
 いい句です。生まれ育った母屋が解体される。いろいろな思いが過ぎる。「想い出」は思いを
 直裁に言っているので、このような句にしてみましたが、いかがでしょうか。
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9 水面をピンクに染めて散る桜 菜の花
<添削> 花散るや水ゆるゆると流れゐて
 あれこれ言い過ぎて、説明になっています。簡明に詠みましょう。
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10 山一つ庭となりしや蕨とり さつき
<添削> 山一つ庭となりしや蕨取り
 いい句です。「山一つ庭となりしや」と上手く表現され、景の大きな句になっています。
 沢山採れましたか、美味しかったですか。
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11 見渡して早すぎたねと花見客 千 柳
<添削> 人一人いない花見の席を取り
 抽象的で俳句として面白くありません。もっと具体的に断定して詠みましょう。うまく
 添削できませんが考えてみてください。
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12 幼子の手のぬくもりや春の雪 彰 子
  私の句です。孫を一緒に思いがけない春の雪を楽しむ。
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13 古池も蛙も失せりビルの街 峰 生
 いい句かどうか見解の分かれる句。俳句は物を見て感じることを物に託して詠むものです。
 そういうことで私もよく分かりません。
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14 親の世の柱時計の音のどか 峰 生
<添削> 父遺す柱時計の音のどか
 「世」は「時代、期間」のことを言います。したがって「親の世」では漠然としています。そこで
「父遺す」と断定しました。いかがでしょうか。ぼんぼんとなる柱時計の響きは情緒があります。
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15 満開の桜におぼれ裾あらわ ゆづき
<添削> 満開の桜に見とれ裾あらわ
 いい句ですが、「おぼれ」「あらわ」と少し言い過ぎているように思われるので、このように
してみました。裾の乱れに気がつかないほど満開の花に心を奪われているのです。
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16 紙雛折りて子供の帰り行く 初 霜
<添削> 紙雛折りて子供の熟睡(うまい)かな
 「子供の帰り行く」では面白くないので、紙雛作りで疲れた子供がぐっすり眠った
 様子にしてみました。
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17 春の風邪うつらうつらの一日かな まこと
<添削> 一日中うつらうつらと春の風邪
 かな止めの場合は一気に詠みつづけます。「春の風」で軽く切れるので
添削句のようにしてみました。
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18 春宵や男やもめの卵焼 彰 子
 私の句です。妻がたまに居ない時に慣れない料理を作るがめんどくさい。
 そこで簡単な料理ですます。妻のありがたさを思う。
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19 一服の茶筅の音や初音かな さつき
<添削> 一服の茶筅の音や匂鳥
 「初音」は歳時記により季語にのっていないものがあります。「鶯の初音」は春の季語です。
 「や」「かな」は強い切れ字で絶対に二つ使わないようにしてください。
 また、基本的に音と音は避けましょう。
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20 桜鯛魚籠の氷も桜色 いなご
 いい句です。「桜鯛」は春の季語、「氷」は冬の季語ですが、この場合は「桜鯛」が強い
 季語なのでよしとされます。桜鯛が桜色に輝いて美しい。
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21 なたね梅雨マウスにぎりて鍬に錆 そらまめ
<添削> 立てかける鍬の錆ゐる菜種梅雨
 原句ですと、少し意味が曖昧になり、また三段切れになります。断定的に作ってみました。
 鍬と梅雨の取り合わせです。
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22 灰の海潜りて青き初蕨 楓 花
<添削> 山寺の鐘鳴ってゐる初蕨
 「灰の海潜りて」の表現が気になります。「青き」は初蕨」ですから省略しましょう。
 やや説明的なので添削句のようにしてみました。鐘と蕨の取り合わせです。
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23 桜咲き旅立つ孫や大空え ゆづき
<添削> 初孫の旅立つ朝の大桜
 「アメリカへ旅立つ」と言いますが、「大空へ旅立つ」と言いますかね。添削句のように
 してみました。寂しい思いと期待する思いと交錯する。いつも見ていた大桜が見守ってくれる。
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24 転勤の子の持ち帰るチューリップ いなご
<添削> 転勤の子の抱えゐるチューリップ 
 「持ち帰る」は家から持ち出すのか、家へ持ち帰るのか、両方にかかるので曖昧になります。
 このようにするとはっきりします。
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25 絵手紙の見事な桜届きけり 哲 朗
<添削> 絵手紙の花にみとれて暮れにけり
 いい句です。「絵手紙」と「届く」は説明になるので、添削句のようにしてみました。
 絵手紙を感心しながらつくづく眺めている。
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26 花鳥園世界の珍鳥花の中 石の花
<添削> 世界中の珍鳥集ふ花の昼
 花鳥園|世界の珍鳥|花の中|と三段切れになっています。ぶつぶつ切れるとリズムが
 よくありません。「花の中」というのがよく分かりません。このようにしてみました。
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27 散る花を肩に路地出る郵便屋 峰 生
 いい句です。路地の桜が散りしきっていたのでしょう。いい風情ですね。
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28 花便りおこしなされと老和尚 まこと
<添削> 老僧のお越しなされと花便り
 上五と下五を入れ替えてみました。いかがでしょうか。
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29 雨の夜るライトに映ゆる落ち椿 初 霜
<添削> 雨の夜のライトに映ゆる落椿
 いい句です。落椿は落ちてもなおきれいです。景がみえるようです。
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30 花筵たたむ一日の夢もまた 楓 花
 いい句です。花筵をたたむと同時に今日楽しかった夢のような一日も忘れて現実にもどる。
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31 桜花(はな)終えて次は吾が世とチュウリップ 竹 豪
 「花」と言えば「桜の花」のことをいいます。「チューリップ」は春の季語で季重ねになります。
 考えてみてください。
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32 大山の白嶺望む春霞 石の花
<添削> 大山の高嶺を望む春霞
 大山の美しい姿がかすんでぼんやり見える。
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33 はよふとれアンドンかけてスイカ植え そらまめ
 俳句では「はよ太れ」というような思いは言わない方がいいのです。「西瓜蒔く」という
 季語はありますが、「西瓜植う」という季語はありません。考えてみてください。
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34 陽の恵み大地の恵み蕨食ぶ 初 霜
 いい句です。調子がいいですね。蕨は美味、自然に感謝していただく。
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35 水面に光り集めて桜咲き さつき
<添削> 水面に光り集むる花盛り
 「桜」といえば桜が咲いていることを言います。
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36 ゴンドラがどっと人吐く花の城 コスモス
 いい句です。大勢の花見客で賑わっている様子がよく分かります。
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37 明日は雨妻にせかれて花見かな 千 柳
<添削> 明日雨と妻にせかるる花見かな
 かな止めの場合は句切れなしに一気に詠みつづけます。「明日は雨」で軽く切れるので、
 このようにしてみました。
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38 逆上がり繰り返す子や葱坊主 コスモス
 いい句です。逆上がりを一生懸命に練習している子供と「葱坊主」との取り合わせが面白い。
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39 生前の父の袴や松の芯
 いい句です。袴姿の凛々しい父を思い出します。「松の芯」がよく効いています。
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40 春嵐や桜の木樹の花哀れ 石の花
<添削> 山桜大きく揺れる旧街道
 「春嵐」という季語はありません。あるとすれば「桜」は春の季語で季重ねになります。
 また、あれこれ言い過ぎです。焦点を一つにしぼって詠みましょう。
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41 ぼたん雪舞ゐる闇の深さかな 彰 子
 私の句です。夕方から降り出したぼたん雪をしばらく眺めていると、やがてひらひらと
 闇に消えていく。
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42 足音に鯉パクパクと水ゆるむ 竹 豪
<添削> 足音に鯉ぱくぱくと春の昼
 「水ゆるむ」は季語にありません。「水温む」(みずぬるむ)が季語です。
 鯉と水は付くので止めましょう。
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43 桜蕊(さくらしべ)ほんのり赤きてのひらに  
<添削> 手のひらにほんのり赤き桜蕊
 調子が悪いので、五七五を入れ替えてみました。
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44 沈丁花香りを乗せる停留所 哲 朗
<添削> 沈丁の香りを乗せる始発バス
 「沈丁花」を「沈丁」にしました。この方が調子がよくなると思いまして。原句ですと意味が
 やや曖昧なので、「停留所」を「始発バス」に替えてみました。
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45 満開の桜ひと雨うらめしや 竹 豪
<添削> 咲き誇る桜や雨の降りしきる
 俳句では心情は直に詠まないで詠み手に想像して貰うのです。添削句で詠み手はいろいろ
 想像します。例えば、満開の桜もこの雨で散ってしまうだろうな。
 惜しい、雨よ早く止んでくれと願う。
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46 嵐すぎ畑みまわり胡蝶まう そらまめ
<添削> 胡蝶舞ふだんだん畑に影落とし
 嵐すぎ|畑みまわり|胡蝶まう|と三段切れになります。三段切れはぶつぶつ切れて
 調子が悪くなります。
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47 行く春を更地に立ちてふり返る 浩 風
 いい句かどうか。少し抽象的なような気がしないでもありませんが。更地がいいのかどうか。
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48 初燕お練り金比羅三津五郎 媛 香
 いい句です。上手いですね。金比羅歌舞伎で三津五郎のお練り、大勢の人で賑わう。
 季語もよく効いています。金比羅歌舞伎では役者が車に乗って町中を練り歩く。
 これをお練りと言います。三津五郎は歌舞伎役者で坂東流の家元。
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49 花や咲くここにもそっと生きる幸? 峰 生
<添削> 初花やここにもそっと生きる幸
 花と言えば、桜が咲いていることを言います。したがって花や咲くと詠まないほうがいいのです。
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50 春おぼろ宴を添えるボンボリや ゆづき
<添削> ぼんぼりを宴に添へる花曇
 「おぼろ」は春の季語です。したがって「春おぼろ」とは詠みません。
 「宴を」は「宴に」ではないでしょうか。
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51 ふらここに立ちて揺る子の長き髪 コスモス
<添削> ぶらんこを漕ぐや少女の長い髪
 「ふらここ」は「ぶらんこ」のことで、春の季語です。原句は説明になります。少し直してみました。
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52 春の日に孫と戯る遊園地  泉
<添削> 春の虹孫とシーソー漕いでをり
 説明になります。このように具体的に詠んでみました。
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53 留守の家(や)に今年もケキョーと挨拶に 菜の花
<添削> 留守の家に今年も訪ふや花見鳥
 空屋になっても鶯が律儀にやってくる。そして美しい喉を聞かせる。
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54 お花見や一句書きおる箸袋 いなご
 いい句です。花見をしていると、一句浮かぶ。早速箸袋にしたためる。
 いい句ができたとご満足悦。