年を重ねるごとにありがたいと思うこと、それは自分が俳句を |
作り続ける人生を選んだことです。 |
この世の森羅万象を、季語をキーワードにしてじっくり観察し、 |
かけがえのない自分のたましいのかたちを1行17音字の詩形に |
うたいあげてゆく。こういう人生を重ねてゆける句作の日々に、 |
感謝しつくせません。名句をじっくり観賞してみましょう。 |
人生とものの見方を教えられ、自分のこころも深まり、 |
ゆたかになります。名句をたくさん読むことは、俳句上達の |
いちばんの近道でもあります。 (黒田杏子の本より) |
梅雨に入りました。じめじめした鬱陶しい日がつづきますが、 |
積極的に句作りに励んでください。では、私流の添削と寸評をします。 |
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番号 |
添 削 と 講 評 |
俳 号 |
1 |
雨上がる低空飛行のツバメの子 |
泉 |
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<添削> 雨上がる低空飛行の燕の子 |
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やや説明的ではありますが、句になっています。中八が何とかなりませんか。 |
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また、「ツバメの子」は「燕の子」と漢字にしましょう。 |
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2 |
側溝を掃く手を止める蟻の列 |
さつき |
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いい句です。蟻の列を側溝を掃く手を止めてじっと見詰める。そして蟻に |
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負けないように頑張ろうと思う。 |
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3 |
ゆすらうめおかっぱ頭の三姉妹 |
楓 花 |
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<添削> ゆすらうめ食ぶおかっぱの三姉妹 |
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いい句です。中八になるのでこのようにしてみました。ゆすらうめをおいしそうに |
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食べている仲良し三姉妹。 |
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4 |
紫陽花や雨にうたれて色さえる |
ゆづき |
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<添削> 紫陽花の毬やみ空に鳥の声 |
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「紫陽花」「雨」は付き過ぎるので避けましょう。また、説明になります。 |
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このように詠んでみました。 |
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5 |
媼棲む古庭の奥かわず鳴く |
初 霜 |
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<添削> かわず鳴く媼(おうな)の小さき庭の奥 |
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「古庭の奥」で切るのは調子が悪いのでこのようにしてみました。 |
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6 |
父の日や回転寿司の皿重ね |
哲 朗 |
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いい句です。家族全員で回転寿司をたらふく食べているのでしょう。微笑ましい |
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光景。会計はもちろん子供達でしょうね。 |
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7 |
梅干をふふむ八月十五日 |
彰 子 |
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季重ねになりますが、八月十五日(終戦記念日)が強い季語でいいのかなと |
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思いまして。食料難のときのつらい思い出。平和はありがたい。 |
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8 |
つる草の鎌の重たし炎天下 |
浩 風 |
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私には句意がよく分かりません。悪しからず。 |
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9 |
草刈り機エンジン止めて揚げ雲雀 |
そらまめ |
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<添削> 草刈り機のエンジン止めて揚げ雲雀 |
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いい句です。揚げ雲雀が励ましてくれているのでしょうか。 |
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10 |
一輪のバラに造化の神宿る |
千 柳 |
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私には句意がよく分かりません。悪しからず。 |
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11 |
うなだれて雨を焦がれる紫陽花よ |
菜の花 |
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<添削> 紫陽花のうなだれてゐる上天気 |
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「紫陽花」に「雨」は付き過ぎ。このようにしてみました。 |
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12 |
シーツ干す糊の香りや聖五月 |
楓 花 |
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いい句です。爽やかないい気分です。季語もよく効いています。 |
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13 |
父の日や赤きティシャツ贈らるる |
まこと |
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いい句です。きっと赤いティシャツが似合うのでしょう。いつまでも |
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元気でいてほしい。微笑ましい光景。 |
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14 |
麦秋やうなりをあげてコンバイン |
泉 |
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いい句です。コンバインの音も快適。作業がはかどる。季語もよく効いています。 |
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15 |
ここに吹く大きくうねる麦の秋 |
哲 朗 |
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私には句意がよく分かりません。悪しからず。 |
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16 |
坪庭のポキリもぎたり初胡瓜 |
竹 豪 |
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<添削> ぽっきりともぐ坪庭の初胡瓜 |
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調子が悪いのでこのようにしてみました。新鮮な胡瓜さぞ美味しいことでしょう。 |
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17 |
紫蘇の葉をざぶざぶざぶと洗いけり |
いなご |
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いい句です。紫蘇の葉を丁寧に洗う。いい香りがしています。梅の漬け物に |
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使うのでしょうか。 |
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18 |
しまなみの水軍跡や薔薇の園 |
ゆづき |
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<添削> 島影の水軍跡や薔薇の園 |
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「しまなみ海道」と言う言葉はありますが、「しまなみ」と言う言葉はありません。 |
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そこでこのような句にしてみました。 |
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19 |
ときめきを僅かに残す蛍狩り |
さつき |
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いい句です。幻想的な蛍狩り。淡い光にときめきを感じるロマンチスト。 |
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20 |
薪能炎に映ゆる神の杜 |
まこと |
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<添削>おやしろの杜焦がさるる薪能 |
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「薪能」と「炎」は付き過ぎるのでこのようにしてみました。幽玄の世界。 |
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21 |
幽谷や昔を忍ぶ那智の滝 |
石の花 |
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いい句です。幽谷の中、那智の滝を見ながら昔を忍んでいる。 |
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22 |
バラ庇ふ傘とりどりで梅雨に咲く |
竹 豪 |
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<添削> 旅立つや薔薇覆ふ傘のとりどりに |
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「梅雨」「薔薇」は夏の季語で、季重ねになります。 |
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23 |
雨降りの順路混み合う菖蒲園 |
哲 朗 |
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<添削> とりどりの傘のゆき交う菖蒲園 |
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原句ですと説明になり面白味がありません。 |
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24 |
眺望や潮岬の夏の夕 |
石の花 |
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<添削> 風わたる最南端の夏夕べ (潮岬にて) |
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「眺望や」で切るのはどうかと思いましてこのようにしてみました。 |
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25 |
父の日にプレゼントする人もなく |
菜の花 |
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いい句です。少々哀れを感じないでもないが、人を当てにせず頑張りましょう。 |
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26 |
目頭かゆしすいすいと赤蜻蛉 |
彰 子 |
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私の句です。目の前を自由気ままに赤蜻蛉が飛ぶ。 |
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27 |
春静か湯布渓谷の霧の中 |
泉 |
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<添削> 日が落ちる湯布渓谷の霧の中 |
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「春」は夏、「霧」は秋の季語です。また「春静か」という季語あるいは |
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言葉はありません。上五を替えてみました。 |
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28 |
溝浚へ集まる人の肩に鍬 |
いなご |
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<添削> 溝浚へ終ふ一服の肩に鍬 |
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「溝浚へ」は夏の季語。原句ですと説明的で面白味がないのでこのように |
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してみました。 |
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29 |
三行の教訓つばめ翻る |
彰 子 |
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私の句です。学校の教訓は三行が多い。近くの中学校の校訓も三行である。 |
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三行の教訓の建つ校庭につばめが元気よく飛び交っている。 |
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30 |
借りて履く長靴太し溝浚え |
コスモス |
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<添削> ぶかぶかの長靴洗ふ溝浚え |
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説明的なのでこのようにしてみました。 |
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31 |
てふてふは青虫の親アッチイケ |
そらまめ |
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「てふてふ」は春、「青虫」は秋の季語です。アッチイケはいただけません。 |
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考えてみてください。 |
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32 |
花槐土白く埋め匂ひ満 |
媛 香 |
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<添削> 芳しや埋め尽くしたる花槐 |
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「花槐」(はなえんじゅ)は夏の季語。調子がよくないのでこのようにしてみました。 |
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33 |
初夏の風我が踝(くるぶし)を吹き抜けよ |
楓 花 |
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私には句意がよく分かりません。悪しからず。 |
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34 |
時の日や形見の時計母を恋ふ |
媛 香 |
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<添削> 時の日や母の形見の金時計 |
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「形見」「母を恋ふ」は付き過ぎ。また俳句では心情は直裁に言わないほうが |
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いいとされています。添削句で母を偲んでいるのが十分伝わります。 |
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35 |
旅からのみやげとどきぬ麦の秋 |
浩 風 |
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<添削> 旅からの土産とどきぬ麦の秋 |
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いい句です。いい時候に旅に出かける。さぞ楽しいことでしょう。 |
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旅先から留守居に好物の土産がとどく。 |
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36 |
梅雨晴れて遠くより子等のはしゃぐ声 |
菜の花 |
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<添削> 梅雨晴や遠くに子等のはしゃぐ声 |
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「梅雨晴れて」を「梅雨晴や」にしました。中八になっています。 |
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37 |
停車場で巣立つつばくろ子だくさん |
ゆずき |
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<添削> 停車場のつばくろ巣立つ昼下がり |
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説明になります。また「、巣立つつばくろ子だくさん」は意味があいまい。 |
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38 |
薔薇大輪はらりと落ちて風生まる |
コスモス |
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<添削> 紅薔薇のはらりと落ちて風生まる |
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「薔薇大輪」を「紅薔薇」に置き換えてみました。 |
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39 |
麦の秋黄色の帽子見えかくれ |
まこと |
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<添削> 麦熟るる赤い帽子の見えかくれ |
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「麦の秋」とは初夏のころの季節のことを言います。「麦の秋」に帽子の |
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見えかくれはいかがなものか。 |
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40 |
ダム近し風鈴草の峠道 |
峰 生 |
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<添削> 風鈴草つらなり湖(うみ)の見える丘 |
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「風鈴草」は「蛍袋」のこと。夏の季語。ダム近しがあいまいなので、湖見えると |
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断定しました。 |
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41 |
庫裡の中経文唱える夏遍路 |
初 霜 |
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<添削> 風のなか鈴音ひびく秋遍路 |
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「遍路」は春の季語。「秋遍路」は秋の季語。「夏遍路」と言う季語は |
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ないと思いますが。原句ですと言い過ぎ、説明になります。また中八です。 |
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42 |
田植え前逆さ風景あぜの額 |
そらまめ |
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私には句意(情景)がよく分かりません。悪しからず。 |
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43 |
生かされて皐月の空へ深呼吸 |
千 柳 |
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私には句意が今ひとつ分かりません。悪しからず。 |
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44 |
新茶売る姉(あね)さんかぶりで町おこし |
さつき |
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<添削> 新茶売る老ひの姉(あね)さん被りかな |
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あれもこれも言い過ぎです。中八になっています。「町おこし」を省略しても、 |
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町おこしをしていることは想像出来と思います。 |
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45 |
子の幸を願い詣でる若葉寺 |
初 霜 |
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<添削> 子の幸を願ふ鎮守の若葉かな |
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「谷若葉」「里若葉」「山若葉」は、ある場所、視野に入るすべての |
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木々を言います。私の歳時記には「若葉寺」という季語はありません。 |
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「詣でる」「寺」は付き過ぎ。 |
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46 |
忘帰洞磯に白濤夏の月 |
石の花 |
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<添削> 忘帰洞磯の波立つ夏の月 |
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私は「忘帰洞磯」を知りません。俳句の後に添え書きをして貰うと |
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ありがたいのですが。上手く添削できません。悪しからず。 |
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47 |
苔の花土塀に咲きて寺静か |
千 柳 |
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<添削> 寺静かなるや土塀に苔の花 |
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調子が悪いのでこのように詠んでみました。 |
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48 |
平和なり田に一面の花菖蒲 |
いなご |
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いい句です。美し花菖蒲が咲き乱れている。平和のありがたさを |
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しみじみ感じる。 |
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49 |
隣へと塀をつたいて蟻の道 |
浩 風 |
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<添削> 隣人は何をしてると蟻の道 |
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説明になるので、このようにしてみました。 |
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50 |
竿売りの伸びやかな声梅雨晴間 |
コスモス |
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<添削>梅雨寒や竿売りの声伸びやかに |
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「竿売り」と「梅雨晴間」は付ます。「梅雨晴間」を「梅雨寒」 |
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にして上五にもってきました。 |
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51 |
夏空をひとり帰ると孫メール |
峰 生 |
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<添削> 初蝉やひとり帰ると子のメール |
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俳句の世界では孫の句は作らないほうがいいそうです。句意が今ひとつ |
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はっきりしないので、このように詠んでみました。 |
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52 |
まだまだと米寿を目指す喜寿の吾 |
竹 豪 |
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<添削> まだまだと米寿を目指す喜寿の春 |
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季語がありません。「喜寿の吾」を「喜寿の春」としました。 |
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思いはよく分かります。長寿社会になっています。頑張ってください。 |
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53 |
通り雨止みて埴生に夜鷹鳴く |
峰 生 |
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<添削> 夜鷹鳴く埴生の園の通り雨 |
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やや説明的か。「通り雨」とは「すぐ晴れ上がる雨」のこと。したがって添削句 |
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のような詠み方もあります。 |
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54 |
空海のゆる抜く池や青嵐 |
媛 香 |
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素直で簡明ないい句です。四国では空海の恩恵をうけている所は |
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沢山あります。季語もよく効いています。 |