10月分の添削と寸評 |
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仲秋の名月も過ぎ、稲刈りもすっかり終わって秋も深まってきました。 |
紅葉もこれからが本番です。 |
しかし、季語の分類では陽暦の11月から冬になります。 |
私流の添削と寸評をしていますが、このことについて以前にも言った |
かも知れませんが、お話しておきます。私は俳句結社「糸瓜」に20年 |
所属し、篠崎圭介主宰の指導を受けました。したがってその考え方 |
に基づいて添削と寸評をしています。その内の2,3を言いますと |
@ 実感したことを自分の言葉で素直に簡明に表現する。 |
A 原則として歴史的かなずかいを使う。 (旧かなずかい) |
と言うことです。どうぞ了承のほどお願います。 |
今月もいい句が沢山ありました。 |
少しは精だしながら楽しく俳句をやりましょう。 |
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番号 |
添 削 と 寸 評 |
俳 号 |
1 |
ビル谷間里芋畑の畝のあり |
初 霜 |
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<添削> 芋の葉の露の重たきビル谷間 |
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原句ですと説明になり調子がよくないのでこのように詠んで |
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みました。「芋」は里芋、「藷」は甘藷のことを言います。 |
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2 |
秋祭り小舟寄り添う船御幸 |
浩 風 |
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<添削> 船御幸に小舟寄り添ふ秋祭 |
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「秋祭」と名詞切れになると調子がよくないので上五を下五に |
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もってきてみました。「秋祭」と名詞のときは送りかなはいり |
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ません。 |
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3 |
運動会喚声とどく畑仕事 |
まこと |
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<添削> 畑打つや喚声上がる運動会 |
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調子がよくないので上五を下五にもってきました。 |
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4 |
大雪(たいせつ)の山を彩る七竈(ななかまど) |
泉 |
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大景を詠んだ、いい句です。七竈の紅葉が実に見事。 |
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5 |
秋祭り男の熱気たぎる朝 |
ゆづき |
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<添削> 若衆の熱気のたぎる秋祭 |
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調子がよくないので、上五を下五にもってきました。 |
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6 |
水族館いるかのショウに眠りいて |
初 霜 |
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句意がよく分かりません。悪しからず。 |
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7 |
農業祭秋蚕に集ふ子らの笑み |
まこと |
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<添削> 農業祭の秋蚕に子等の集ひをり |
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「笑み」は省略してみました。子供はいろいろな表情をしていると |
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思いますが、それは読者にまかせます。 |
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8 |
麦秋の枯れ田に野草ちらほらと |
石の花 |
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いい句です。よく観察されています。まもなく田植えで忙しくなる。 |
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9 |
トンネルを抜けて消えゆく霧の中 |
哲 朗 |
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<添削> 朝霧やトンネルを行く一両車 |
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句意がよく分からないのでこのように詠んでみました。 |
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10 |
竹馬の大き歩幅や天高し |
彰 子 |
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私の句です。竹馬乗りに自慢していた子供のころを思い出す。 |
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11 |
月影に落ちる涙のひとしづく |
泉 |
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句意がよく分かりません。悪しからず。 |
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12 |
篝火や月愛でる人河川敷 |
媛 香 |
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<添削> 望の夜の篝火照す河川敷 |
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調子がよくないのでこのように詠んでみました。 |
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13 |
露天風呂にひとりかりがね渡りをり |
彰 子 |
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私の句です。 大きな露天風呂に一人くつろぐ幸せなひととき。 |
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14 |
晩秋の空冷ややかに湯屋に着く |
石の花 |
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<添削> 月光のそぞろに寒きいで湯町 |
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「晩秋」「冷ややか」は秋の季語です。 |
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15 |
木犀が散歩の道を遠くする |
千 柳 |
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<添削> 木犀の香に誘はるる遠出かな |
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原句は抽象的なので、断定的に詠んでみました。 |
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16 |
萩まつり野点一服笹団子 |
媛 香 |
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<添削> 笹団子美味し白萩咲きこぼれ |
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「萩まつり」「野点一服」「笹団子」と言い過ぎていて説明になります。 |
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17 |
太鼓台花の口上高らかに |
浩 風 |
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<添削> 秋晴や大房揺るる太鼓台 |
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「太鼓台」が季語になるかどうか。大歳時記にはのっていません。 |
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18 |
木犀のかたまり咲きて金深し |
いなご |
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<添削> 木犀の香りや月の昇り初む |
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「咲き」は省略しました。 |
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19 |
牛啼くや開拓村の秋日和 |
彰 子 |
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私の句です。 大野ヶ原でののどかな光景。搾りだちの牛乳が美味い。 |
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20 |
不器用に妻の分まで林檎剥く |
哲 朗 |
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いい句です。病弱で不自由な奥様でしょうか。奥様のために慣れない |
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手つきで林檎を剥く。夫婦愛。 |
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21 |
干し柿に指を触れみて頷きぬ |
千 柳 |
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<添削> 干柿に指を触れゐる親子かな |
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「頷きぬ」は省略したい。親子で毎日食べごろを確かめる。 |
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22 |
秋祭り我は病で床に伏す |
初 霜 |
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<添削> 病床に伏して見つむる祭獅子 |
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具象性にかけるのでこのように詠んでみました。 |
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23 |
新聞の落ちてまた鳴くちちろかな |
まこと |
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句意がよく分かりません。悪しからず。 |
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24 |
お団子を児等と丸めて初芋煮 |
楓 花 |
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<添削> 大鍋に児等つつき合ふ初芋煮 |
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「お団子」「芋煮」でどちらか省略したい。子等の様子を詠んでみ |
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ました。 |
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25 |
有難き稲穂の波や風わたる |
峰 生 |
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<添削> 美しき稲穂の波の宇和盆地 |
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「稲穂の波」「風わたる」は付き過ぎ。「有り難き」と気持ちを直に |
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言わない方がいい。 |
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26 |
ボートこぐ高千穂峡に紅葉浮く |
そらまめ |
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<添削> ボート漕ぐ高千穂峡の照紅葉 |
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「紅葉浮く」を「照紅葉」に替えてみました。動詞はなるべく |
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ない方がいい。 |
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27 |
句作りのスランプ癒す虫の声 |
ゆづき |
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いい句です。誰でもスランプはあります。虫の声に励まされて |
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めげずに句作りに精出しましょう。 |
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28 |
足湯するそっと横目で大根足 |
竹 豪 |
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<添削> 秋気澄む大根足の足湯かな |
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季語がありません。考えてみてください。 |
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29 |
薯掘の子等の歓声空真青 |
いなご |
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<添削> 薯掘の歓声あがる晴天下 |
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調子がよくないのでこのように詠んでみました。子等と言わなく |
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ても情景は分かると思います。 |
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30 |
佐用姫もかくや夕映え草ひばり |
峰 生 |
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* 松浦佐用姫の伝説から…… |
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いい句です。「草ひばり」はコオロギ科の昆虫で澄んだ声で、草の間 |
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を鳴き続ける。いい情景をかもしだしています。この句のように添え |
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書きをつけてください。 |
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31 |
特攻の遺書に涙す知覧の秋 |
そらまめ |
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<添削> 特攻の遺書に涙す秋燕 (知覧にて) |
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いい句ですが、「知覧の秋」が気になります。 |
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例えばこのように詠んで添え書きとして「知覧にて」とするといいと |
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思います。 |
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32 |
運動会子供とともに眼が走る |
千 柳 |
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<添削> 幼子を両手に走る運動会 |
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私には句意がよく分かりません。悪しからず。 |
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33 |
病む友を団扇の町に見舞ひけり |
楓 花 |
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いい句です。「団扇の町」とは丸亀のことでしょうか。久しぶりに |
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友を見舞って励ます。友は大変喜んだことでしょう。 |
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34 |
芋の露右往左往に光りけり |
哲 朗 |
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いい句です。情景をよくとらえられています。 |
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<添削> 芋露の右往左往に光りけり |
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35 |
手のひらに受けてこぶりの名残茄子 |
浩 風 |
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いい句です。大事に育てた茄子への愛情が伝わってきます。 |
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36 |
妻と掘る腰痛忘れて芋の秋 |
そらまめ |
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<添削> 腰痛を忘れて妻と芋を掘る |
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中八です。「芋の秋」は「芋の収穫の頃」を言います。そこで |
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このように詠んでみました。 |
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37 |
秋空に尾根の風車は水平に |
さつき |
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私には句意がよく分かりません。悪しからず。 |
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38 |
天高しかわるがわるに望遠鏡 |
いなご |
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具象性が今ひとつのように思いますが、いい句です。絶景に、 |
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望遠鏡を早く早くと奪い合う。 |
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<添削> 山粧ふかわるがわるに望遠鏡 |
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39 |
月冴えて人それぞれにさびれ街 |
峰 生 |
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私には句意が今ひとつ分かりません。悪しからず。 |
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40 |
朝夕は冷たくなるもまだ夏日 |
竹 豪 |
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「冷たい」は冬の季語で、季重ねになります。考えてみてください。 |
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41 |
満月に肩組み合って千鳥足 |
菜の花 |
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いい句です。楽しい月見でしたね。花より団子ではないですが、 |
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月よりお酒でしたね。気をつけてお帰りください。 |
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42 |
芋煮会笑い皺など気にせずに |
さつき |
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いい句です。色気より食い気。満腹に満足。 |
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43 |
無農薬の添え書きありて店無人 |
コスモス |
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<添削> 無農薬の抜菜の並ぶ無人店 |
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季語がありません。「抜菜」は秋の季語。 |
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44 |
雲の秋茜色して海に落ち |
泉 |
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「秋の雲」は季語ですが、「雲の秋」という季語はありません。 |
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考えてみてください。 |
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45 |
早咲きの椿一輪愛おしく |
菜の花 |
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<添削> 早咲きの椿一輪今日も晴れ |
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気持ちはなるべく直に言わないほうがよいのです。 |
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46 |
獅子頭取れば童顔里祭 |
コスモス |
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いい句です。勇壮に踊っていたのは意外にも子供だった。 |
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驚きとともに感心する。 |
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47 |
金木犀気が付けば匂ひ誕生日 |
媛 香 |
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<添削> 木犀の匂ひひろごる誕生日 |
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中八になっています。調子がよくないのでこのように詠んでみました。 |
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48 |
夕焼けを引っ張ってきた鰯雲 |
楓 花 |
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<添削> 夕焼けを引っ張ってきた鰯雲 |
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「夕焼け」は夏の季語。「鰯雲」は秋の季語です。原句は少し強引 |
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だと思います。 |
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49 |
浅間山晴れて秋色駈け下りる |
コスモス |
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いい句です。高い山は紅葉の変化が激しい。見事な紅葉に見とれる。 |
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50 |
天高し八千代をめざす紀元杉 |
さつき |
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いい句です。屋久杉は千年越えてはじめて屋久杉というそうです。 |
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生命力の尊厳を感じます。 |
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51 |
十六夜の月に魅せられシャッター押す |
なのはな |
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<添削> 奥伊予のいざよふ月を写しけり |
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俳句は感情をできるだけ言わないで、余韻を残して詠むのです。 |
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そして読む人がいろいろ想像するのです。 |
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52 |
露天風呂肌に冷たき風の中 |
石の花 |
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<添削> 混浴の冷たき風の露天風呂 |
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「露天風呂」の句は説明になったり、当たり前の句になったりして |
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作りにくいものです。 |
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53 |
ころころとこほろぎ鳴きて秋を知る |
竹 豪 |
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<添削> ころころとこほろぎ鳴くや北の宿 |
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「こほろぎ」「秋」と季重ねです。 |
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54 |
水澄て魚がもどりしみずもかな |
ゆづき |
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<添削> 水澄や魚群ごる日暮れどき |
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「水」「魚」「みずも」と共通したものが並びます。省略しましょう。 |